投稿日:2024.12.01

アーティスト

手嶋勇気

<インタビュアー>

株式会社朝日ビルディング 川尻 晴菜

独立行政法人都市再生機構 舟橋 未乃里

 

本事業で整備する1階と6階のオープンスペースは、日常的に市民に開かれた場所として、市民の皆様が様々な活動を通じ、想いを形にできる場所となるよう計画を進めています。今回、その完成に先駆けて市民参加型のアートプロジェクト「かみはちスケッチ」を実施しました。

「かみはちスケッチ」では、エリアプラットフォーム「カミハチキテル」とコラボし、市民の皆様から募集した紙屋町、八丁堀にまつわる記憶やエピソードをもとに、相生通り沿いの新築工事仮囲いにアーティストの手嶋勇気さんにデジタルドローイングを制作してもらいました。

今回は「かみはちスケッチ」の制作過程や想いについて、手嶋さんにお話を伺いました。

 

―自己紹介をお願いします。

画家として活動をしています。北海道出身ですが、大学への進学を機に広島に来て、その後も広島を拠点にしています。幼少期から絵を描くことが好きでしたが、中学生のころにゴッホの展示を見たことがきっかけで、美術に興味を持ちました。

その後、美術系コースに進学し、人物画や静物画など写実的な絵を中心に描いていましたが、広島の町並みや風景に触れるうちに、4~5年前から風景画を描く機会が増えてきました。

 

 

―「かみはちスケッチ」の依頼が来たとき、どう感じましたか?

広島の中心地かつパブリックな場で、多くの人に見てもらえる大きな作品を制作することに特別な意義を感じました。これまでにも一度大規模な作品を制作した経験がありますが、それに次ぐサイズ感で、今回のプロジェクトも非常に気合が入りました。

これまで背景にビルを描くことがなかったので、真新しい取組みでした。今回お話をいただかなければ、描くことはなかっただろうなと感じています。

 

―「かみはちスケッチ」はどのように制作されたのでしょうか?

建物や風景など町のパーツごとにスケッチして、それらをコラージュする形で全体を構成しています。

すごく抽象化はされていますが、写真ではなく実際にモノを見て描くことをルールとしています。エリアごとに仕上げるのではなく、昼夜問わず相生通を何往復も歩いてスケッチしました。炎天下のなか、少しずつ描きながら進んでいくので、制作中は怪しい目で見られたことも一度だけありました。(笑)

普段から相生通は歩くので見慣れた景色でしたが、描いているうちに新たな発見もあり、立町御門の碑や中の棚商店街のアーケードなど、歴史を大切にしているからこそ、今もそこに在り続けているのだなと感じました。

また、現状を描くことにこだわり、敢えて今回再開発されるビルを描かず、今ある仮囲いを描いてみました。

 

―非常にカラフルな色使いが印象的です。色選びやその意図について教えてください。

パブリックな場所で展示されるので、明るい雰囲気が合うのではないかと感じて制作しました。最初は青の濃淡だけで表現しようと考えていましたが、実際にコラージュしてみると物悲しい雰囲気になってしまい、雰囲気に合う7色程度を選んで、バランス良く配置しました。これまでの作品からも色選びをしたので、集大成になっています。

描いた時間で色合いに変化をつけることはしていないですが、流川の辺りは夜の雰囲気に合うように少し暗めの色合いを用いています。

 

立町御門の碑 流川の夜景

 

―特にこだわって描かれた部分はありますか?

 今回お話をいただいたときに、周辺環境をオーバーラップするような、影響を与え合い溶け込んだ作品にしたいと考えました。そのため、この作品を背景に人が歩いたときに街が完成することを目指し、人を描くことはしませんでした。

また作品のなかに、過去を表現するモノをどのように加えていくか、頭を悩ませました。碑は過去の名残であるため必ず描きたいと思っていましたが、実際に注目している人はほとんどいないと思うので、あまり目立ちすぎないように、だけど特徴的に配置しました。

 

 

 

―「かみはちスケッチ」では皆さんから多くのエピソードが集められましたが、それらをどのように作品に取り入れましたか?

皆さんのエピソードを拝見しながら、想いをしっかり受け止められるような絵にしたいなと強く感じました。建物や場所にちなんだものがやはり多かったので、特徴的な部分を逃さず書き込んだり、エピソードが認識できるように色を変えたり工夫しました。

特に広島朝日会館やデパートの屋上遊園地・喫茶店など、現在存在しない場所でのエピソードを拝見して、昔の相生通について解像度が上がっていきました。場所が特定できないエピソードでも、あそこじゃないか?と想いを馳せるのが面白い体験でした。

今回、僕自身のエピソードや思い入れを込めることはせずに、少し引いた立場で、誰が見ても想像ができる作品となるように心がけました。

 

 

―「かみはちスケッチ」のように、本事業ではたくさんの人が関わることで創造されるオープンスペースを計画しています。どのようなことを期待しますか?

 

この事業だけでなく、サッカースタジアムや駅の再開発が進み、広島の風景がどんどん変化していく印象を受けています。それ自体は悪いことではないですが、風景が変わることで忘れ去られてしまう思い出もあることを、「かみはちスケッチ」を制作して感じました。

記憶に残るだけでなく、過去の記憶が掘り起こされる場になるといいですね。「かみはちスケッチ」のような取り組みを是非継続していただきたいです。

 

 

手嶋さんに相生通りの街並みを描いていただくことで、過去と現在をつなぎ、多くの人々の記憶を掘り起こすような作品が完成しました。この作品を通じて、かみはちエリアの新たな思い出が生まれることを願っています。

 

 

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